食虫植物は、生きた虫を捕まえて養分とするため、それらの植物はそれぞれに独自の進化を遂げ、そのフォルムが多くの人々を魅了しています。妖艶で美しい食虫植物の種類や仕組み、食虫植物の魅力について紹介します。
食虫植物の代表5種類と生態
食虫植物と聞いて一番最初に思い浮かべるのは、ハエトリソウだと思います。実は、ハエトリソウ属の他にも、『ネペンテス属・サラセニア属・モウセンゴケ属・ムシトリスミレ属』などの代表的な種類があります。
食虫植物ですから、どの種類の植物も、虫を捕まえるのに適した形に進化しています。例えば、ハエトリソウであれば、葉先にトゲの付いた2枚の葉っぱで、挟み込んで捕まえたり、ネペンテスやサラセニアは、虫を捕まえるための袋のようなものがあり、その中に虫を誘い込み捕まえるような仕組みがあります。
どの種属も、他の植物と同じように根から養分を吸収したり、花を咲かせたりもしますが、その他に、無視を捕まえて養分を吸収しています。
というのも、食虫植物が自生している場所が関係しています。どの植物も、栄養が乏しい土地で自生していたため、根から吸収した養分だけでは不足するため、虫を捕まえて足りない分の栄養を吸収できるように進化していた、たくましい植物たちなのです。
食虫植物の種類
ここからは、上で挙げた5つの代表属別に食虫植物の種類と特徴を紹介します。
ハエトリソウ属の種類
ハエトリソウ属は、葉先にトゲがついた二枚貝のような形になった葉っぱで虫を誘い込みます。
誘い込まれた虫が、葉っぱの内側にある感覚毛と呼ばれるセンサーに2回触れると、葉がパッと閉じて、虫を挟んで捕まえます。ただ、この運動には、膨大なエネルギーを要するため、空振りすると致命的なダメージを受けてしまいます。
ですから、いたずらに指で触ってばかりいると、疲れ果てて枯れの原因になってしまいます。もし、羽が閉じるところを見たければ、虫やチーズ辺を与えて上げてくださいね。
ハエトリソウの種類には、葉っぱが横に広がって生長する品種や虫を取るための捕虫葉が斜めに伸びるタイプ(エレクタタイプ)や放射状に広がるタイプ(ロゼットタイプ)などがあります。
マスシプラ オールドタイプ
ハエトリソウと言うと、このオールドタイプを思い浮かべる人が多いと思います。この品種は、古くから育てられているもっともポピュラーな品種です。
この品種の特徴は、鮮やかな緑色の葉っぱをたくさんつける事で、葉は放射状に広がるロゼッタタイプです。
ソーティース
『ノコギリの歯』というなんとも恐ろしげな名前がついていますが、その名の通り捕虫葉にあるトゲが、ノコギリのような形をしています。
ディオネア・マスシプラ(赤い龍)
出典:変•怪•美植物の館
1996年にアメリカで作られた品種で、赤い龍の名前通り、株全体が真っ赤でまさしく赤い龍のようです。
レッドピラニア
出典:東邦植物園ネットショップ
株全体に赤みがかった品種です。葉っぱの縁にあるトゲは、ソーティースのように短く、ギザギザした形がピラニアの歯のように見えることから、この名前がつきました。
エンジェルウィング
出典:食虫生育日記
葉が裏返ったように開くのが特徴で、サーモンピンクをしていることから、見た目が可愛らしく人気のある品種です。
サラセニア属の種類
サラセニア属には瓶子体(へいしたい)と呼ばれる筒状の捕虫葉があります。その葉っぱの中には、消化酵素やバクテリアがあり、その中に落とされた虫は、それらに寄って分解され養分として吸収されます。
葉っぱの上部についたふたにある模様は、出口を迷わせるような柄になっており、一度落ちてしまうと、出口がどこにあるかわからなくなります。
また、瓶子体の内側には、下向きに生えた細かい毛にびっしりと覆われており、もがけばもがくほど筒の底に追い込まれる仕組みになっています。原種は8種類だけですが、観賞価値が高いため、愛好家によって多くの人口交配種が誕生しました。
フラバ
沢山の品種があるサラセニアの中でも特に人気がある「フラバ」の基本品種です。春になると黄色の花をつけ、サラセニアのなかで一番最初に開花します。捕虫葉は、細長い筒状になっており、長さが120cmにもなる大型の原種です。
フラバ・ルブリコーポラ
フラバの中で、最も美しいといわれているこのルブリコーポラは、葉っぱの明るい黄緑と、そこに入る赤色のコントラストがとてもキレイです。
レイコフィラ
出典:東邦植物園ネットショップ
蓋のようになった葉っぱの上部は白く、そこに紫色の線が鹿の子模様のように網目に入る、美しい原種です。この模様は、その植物によって模様の入り方や色合いが異なります。
プルプレア
葉っぱは固く、かぶが全体的にツヤがあり、斜め上向きに付きます。サラセニアの中でも、繁殖力が強く、北方地方が原産なので、寒さに強く育てやすい原種なので、初心者の人にオススメです。
プルプレア・べノーサ
出典:Pinguist!
プルプレアと同属の植物で、全体が赤くなるタイプです。プルプレアの葉は硬いですが、こちらは葉が、全体的にふっくらして和らいです。原産地は、南方であるために、べノーサで、寒さにはっぽう口に弱い。
ミノール
瓶子体のフタとなる部分が丸く湾曲して、入口にかぶさるようにして付くのが特徴です。その姿が、まるでパペットの蛇が口を開けているようなどこか可愛い姿に見えます。あまり市場には出回っていない品種です。
ドラモンディー
出典:http://www.geocities.jp/yrp24/CarnivorousPlants/listImages/drummondii.html
瓶子体の上部は、フタのように葉っぱが丸く広がっていて、そのフタはひらひらと波打った形をしています。株が充実してくると、初夏から秋の初め頃まで茶色っぽい花を咲かせます。
プシタシナ
サラセニアの中では小型種であるプシタシナは、這うように捕虫葉が横に生える品種です。レイコフィラやプルプレア等は、耐寒性に優れていますが、このプシタシナは、暖かい地方が原産であるため、冬場は、室内の暖かい場所で管理しましょう。
ネペンテス属の種類
和名を「ウツボカズラ」というネペンテスは、ハエトリソウに次いで有名な食虫植物です。熱帯アジアには、約100もの品種が存在しています。
サラセニア属と同じく落とし穴方式での捕虫ですが、ネペンテス属の場合は、葉っぱが進化して捕虫するのではなく、葉の先に伸びる蔦に『捕虫嚢(ほちゅうのう)』と呼ばれる袋状のものを付けています。
袋の底には、消化酵素が混じった液体が溜まっており、その中に虫を落とし込んで分解し、養分を吸収します。袋の内側は、蝋のように滑りやすく、しかも、薄い鱗片が張り付いているため、それに掴まっても、すぐ剥がれ落ち下に落ちるようになっています。
自生地には、大まかに「ジャングルなどの高温多湿の地域に自生する種類」、「標高1500mまでの山岳地帯に自生する種類」、「標高3000m級の冷涼多湿の山岳地帯に自生する種類」の3つのグループに分けられ、自生地によって、性質が大きく異なるため、育て方も大きく変わり、上級者でも栽培に困難な品種もあります。
アラータ(アラタ)
出典:Weblio辞書
フィリピンの全域に分布しており、日本でも普及している品種です。和名では、ヒョウタンウツボカズラと言い、捕虫嚢が、ヒョウタンのような形をしているのが特徴です。
マキシマ
出典:苗の通販ならサカタのタネっと
標高1100~2500mの高山帯に自生しており、ネペンテス属の代表的な品種です。日本にも古くから取り入れられており、大型で丈夫な品種です。
大きなものだと、捕虫嚢が50cmほどにもなり、大きな昆虫から、ネズミやコウモリなどの小動物まで捕食するという強者です。
ラフレシアーナ
出典:滋賀で楽しむ食虫植物
ツルの形状が面白いことから、観賞価値が高い品種です。捕虫嚢は、口をあーんと開けて、虫が入るのを待っているような形をしていて、とても可愛らしです。
ただ、育てることはなかなか難しく、ジャングルなどの蒸し暑い環境に自生する品種で、高温多湿を好むため、冬場でも室温を最低15℃には保つ必要があります。
ベントリコーサ
出典:ネペンテス温室外伝
捕虫嚢が白く、虫を落とし込み逃さないように工夫されたエリの部分が、ピンク色をしているのが特徴で、その色合いがとてもかわいらしい品種です。日本にも普及している品種なので、そこそこの耐寒性があり、室内であれば、越冬することが出来ます。
ユースタチア
真っ赤な捕虫嚢が特徴のユースタチアは、ネペンテスの中では、育てやすいことから愛好家も多くいます。
レディラック
出典:育めん犬あんだーばー 【ブログ】珍奇植物
生長すると、10~15cmほどのとてもきれいな赤色の捕虫嚢をつけるのが特徴です。生長するにつれ、葉っぱの表面が紫がかったり茶色っぽい色になります。ただ、それは植物本体が、日焼けしたことによるものです。
ラジャ
出典:サッポコ
1500m~2500mの山岳地帯に自生している品種です。捕虫嚢がフットボールくらいの大きさにまで育つ大型種です。
ワシントン条約で輸出を禁止されていますが、増産されたものであれば、手に入れることは可能です。ただ、耐暑性に弱く、育てることが困難な品種です。
エドワードシアナ
出典:リベラルファーム
捕虫嚢のエリの部分にあるトゲが立体的であることが、このエドワードシアナの特徴で、さらに、その姿と色彩が、この品種の観賞価値を高めています。ただ、入手することも栽培することも非常に困難なため、なかなかお目にかかることが出来ない品種でもあります。
モウセンゴケ属の種類
他の食虫植物の様に葉っぱやツルで虫を捕まえるのではなく、葉っぱの表面から腺毛を生やし、そこから分泌した粘液を光に反射させ、それにつられて近寄ってきたきた虫が、腺毛にとまると、腺毛が虫を巻き込むように動いて捕らえ、消化し吸収します。
モウセンゴケ属は、世界中に分布しており、約140品種ほどが知られています。
モウセンゴケ
出典:Wikipedia
モウセンゴケ属の名前の由来になった品種で、北半球の高山や寒い地域に広く分布しています。自生地が寒い地域であることから、あまり耐暑性はなく、夏場の管理には、注意が必要となります。
モンタナ
真っ赤な腺毛が特徴のモンタナは、腺毛で真っ赤になるその姿が美しい品種です。しかし、自生地が高山地帯であるため、耐暑性に弱いところがあり、特に夏場は気をつけないと、すぐに枯れてしまいます。
アフリカナガバモウセンゴケ
学名をドロセナ・カペンシスという「アフリカナガバモウセンゴケ」は、名前の通り原産地は南アフリカです。
しかし、モウセンゴケの中で最も丈夫な品種であることから、日本の気候であっても、栽培は容易で、モウセンゴケの入門種として知られています。軽い霜が降りるくらいの寒さであれば、耐えることが出きます。花は、赤い花を付ける種類と白い花を付ける種類があります。
イトバモウセンゴケ
出典:滋賀で楽しむ食虫植物
40cmほどの葉っぱをまっすぐ上に伸ばして捕虫するのが特徴です。耐寒性があり、冬芽をつくって冬をこすことから、育てやすい品種です。
スコルピオイデス
出典:タヌキモの栽培
モウセンゴケ属の中でもピグミードロセラと呼ばれる小型の品種の仲間で、ピグミードロセラの中では、大きくなる品種でサソリが尻尾を上げたような姿が特徴です。
比較的簡単に育てることが出来ます。花は、小型種の割には大きくきれいな花をつけるため、群生させて育てると、見ごたえがあります。
クルマバモウセンゴケ
出典:趣味の袋もの
バーマンニとも呼ばれるクルマバモウセンゴケは、日本でも古くから栽培されている品種で、モウセンゴケ属の中では、珍しく1年草であるため、次の年も楽しみたいという時は、種から再び栽培を始める必要があります。
ムシトリスミレ属の種類
葉や茎の表面に、小さな毛がびっしり生えていて、そこから粘液を分泌しています。その毛に虫がとまると、葉は両方の端から虫を巻き込みながらお椀のような形になって、消化し吸収します。
また、分泌された粘液がこぼれないように、葉っぱの縁が反り返っているという特徴があります。ムシトリスミレ以外にも、「ピンギキュラ」という学名でも流通しています。
プリムリフロラ
出典:食虫ちゃん♪
北アメリカやメキシコで広く自生していますが、日本でも、ある特定の地域では群生しています。比較的耐寒性があるため、育てるのが簡単で、ムシトリスミレの中では、一番普及しています。
プリムラ(サクラソウ)のような淡いピンクの花を咲かせることから、この名前がついています。また、愛好家により八重咲きのプリムリフロラ‘ローズ’という品種が作られました。
イオナンサ
フロリダ州で自生している品種で、白い花を付ける種類と紫の花を付ける種類の2系統があります。花は、春先に開花し、こちらで受粉作業をしなくても、沢山の種がとれます。
1年住戸外で栽培できるほど丈夫ですが、凍りそうなほど寒いときには、室内などで管理した方がいいでしょう。
プラニフォリア
出典:食虫植物依存症!
ムシトリスミレ属の中では、育てやすいため多く流通しています。春先に花をつけますが、種を採る場合は、人工授粉の作業が必要となります。
葉っぱは、赤色をしていますが、緑色をしている種類や、形も丸くなる種類、葉先が鋭く尖った形になる種類と様々です。
ルテア
ムシトリスミレ属のなかで、春先に唯一黄色の花を咲かせます。独特の花の色合いが、愛好家の間で人気となっていますが、少し栽培で難しい面があります。
モクテズマエ
出典:Pinguist!
メキシコにあるモクテズマエ渓谷に自生していることからこの名前がついています。花は大きく、ピンクから赤紫色をしており、とても魅力的です。また、葉っぱにも特徴があり10cmほどに伸ばした細長い葉っぱは、捕虫活動も盛んです。
食虫植物の魅力
虫を捕食するなんで、なんだか不気味だと感じる人やその捕虫の仕組みに感心する人がいたかもしれません。それでも多くの人を魅了する食虫植物の魅力は、どこにあるのでしょうか?
それは、やはり特有の捕虫器官にあるのだと思います。捕虫器官と言えば、なんだかグロテスクで恐ろしげなイメージですが、実際の植物を見ると、その姿は可憐であったり、官能的な美しさであったりします。
また、その色彩も幻想的で、自然界に存在するとは想像もつかないような色鮮やかな植物が多くあります。さらに、ムシトリスミレ属に代表されるように、可憐な花を咲かせる種類も多く、ハエトリソウやサラセニアも花を咲かせます。
そして、最大の魅力と言っていいのが、その特殊な姿ではないでしょうか?虫を捕食するために、様々に進化してきた形状やデザインは、見るものを釘付けにしてしまう魅力があります。
まとめ
一言で食虫植物と言っても、その捕虫方法も様々で、種類も豊富にありました。また、同じ属性であっても、自生地域によっては、育て方が異なることもわかりました。
植物が虫を捕食するなんて、不気味な雰囲気がありますが、真実を知ってしまえば、劣悪な環境でも必死に生き抜くための進化の結果で、それがわかると、なんともたくましく愛おしく感じてきます。
もし、少しでも興味を惹かれたなら、是非、摩訶不思議な食虫植物の世界に飛び込んでみませんか?